ごあいさつ

山本 信夫

公益社団法人
日本薬剤師会 会長

山本 信夫Nobuo Yamamoto

公益社団法人 日本薬剤師会 会長
出身:東京都
卒業大学:東京薬科大学

薬剤師の社会貢献にも関わるスポーツファーマシスト

スポーツファーマシストの現状

山本 信夫

公認スポーツファーマシスト認定制度が開始して今年で7年目となりますが、薬剤師を取り巻く環境におけるスポーツファーマシストの位置づけに関してお聞かせください。

薬剤師が本格的にアンチ・ドーピング活動に取り組んだのが、2003年のNew!わかふじ国体(静岡国体)からでした。それは、静岡国体からドーピング検査が始まることになり、薬の専門家である薬剤師に協力要請をいただいたのがきっかけです。トップレベルのアスリートは、相談し、指導してくれるスタッフが周囲にいますが、一般の出場アスリートの場合はなかなか相談できる相手もなく、体調を崩してしまった際に飲んだ市販薬が原因でドーピングとなってしまう、いわゆる「意図しないドーピング(うっかりドーピング)」が問題視されていました。薬の使用に関わることなので日本薬剤師会としては、当然フォローすべき事案だったのです。
こうしてアンチ・ドーピング活動に取り組む中、2009年に日本アンチ・ドーピング機構(JADA)との連携で公認スポーツファーマシスト認定制度が発足し、それから7年たった今、約6,000人以上のスポーツファーマシストが誕生しています。そして、年月を経て国体などの大会にも協力し一定の成果を上げており、少しずつスポーツファーマシストの認知度も広まってきましたが、まだまだスポーツファーマシストを知らない人がいるのも現状です。しかし、昔はあまり認識されていなかったドーピング問題も多くメディアなどに取り上げられるようになり、同時に以前よりもさらにアンチ・ドーピングに対する意識が高まってきました。そこで、スポーツやアンチ・ドーピングに関する知識を持った薬の専門家である、スポーツファーマシストの活動範囲が今後、広がっていくのではないかと考えています。

アンチ・ドーピングに繋がる教育

薬剤師にとって、スポーツファーマシストの資格をどのように活かしていくことを推奨されますか?

2020年には東京オリンピックが開催されます。その東京オリンピックを一つのきっかけとして、アンチ・ドーピングへの意識が今よりもさらに高まり、様々なスポーツ大会の現場において、当然のようにスポーツドクターと一緒に薬の専門家であるスポーツファーマシストが参加し、医薬分業という形で、薬の適正使用を働きかけていけるようになってほしいと期待しています。それは、救護所などでアスリートに投薬が必要な際、安心感を与えることに繋がります。さらに、薬局、薬店やドラッグストアなどでは、大会前やトレーニング時の薬物使用について気軽に相談できる相手として、スポーツファーマシストがいることにより、アンチ・ドーピング環境がさらに整うため、うっかりドーピングが減っていくことになるでしょう。
さらに、日本には学校薬剤師という制度があります。幼稚園、小学校、中学校、高等学校には、学校医、学校歯科医とともに、学校薬剤師を必ず置くことが法律により決められています。その教育現場には将来のアスリートを目指す子ども達もいることでしょう。そこでアンチ・ドーピングや健康に関する教育をすることによって、子どものうちから意識させることができれば、将来的にはアンチ・ドーピング規則違反をさらに減らすことはもちろん、禁止薬物を使用させないことや、薬の適正使用により、人々の健康に繋がると考えています。

薬剤師会の活動理念

日本薬剤師会が公認スポーツファーマシスト認定制度に賛同されている主な理由をお聞かせください。

日本では、薬の種類は2万とも3万とも言われています。そして、日々増えたり減ったりしています。その多くの薬の適切な使用方法や、カラダにおよぼす影響を把握してコントロールするのが薬剤師の仕事です。そのためには日々新しい情報を的確につかんでいく必要があります。また、その資質を維持するためには常に研鑽しなければなりません。
我々からすれば、病気の方には早く治ってほしい、健康な方には不要な薬は避けてほしいと思い、日々様々な場所で活動しています。そしてアスリートの場合は飲まなくても良い薬は避けていただき、スポーツに支障のない「薬の適正使用」をして健康を維持していただきたいと考えています。意図的なドーピングは、薬の不適正使用の最たる事例と言えます。アスリートのカラダのことや、スポーツ精神を考えればあってはならないことです。薬の専門家である我々薬剤師がアンチ・ドーピング活動に取り組むことは当然のことと考えており、公認スポーツファーマシスト認定制度には大いに賛同しています。

日本薬剤師会とJADAで連携されていることは、どのようなことがありますか?

スポーツにおけるドーピングの問題は、国際的なものになっています。当然、ドーピング撲滅の取り組みも年々強化されています。日本でのドーピングの多くは選手が意図していないうっかりドーピングであり、これはアドバイスができるスポーツファーマシストがいれば無くすことができます。そのためにはアスリートや、その指導者に薬について相談ができるスポーツファーマシストの存在を広く知ってもらい活用していただくことが必要になります。
現在、日本薬剤師会とJADAとのさらなる連携強化によって、講演会などを開催し、ドーピングに関する関心度を高めることや、学校などでの教育・啓発活動、そして競技団体へのサポートなどを行っており、スポーツファーマシストが活動できる範囲を広げるための活動を行っています。
さらに、JADAの協力により、アドバイスが必要な方が、近くにいるスポーツファーマシストを探すことのできる検索サイトができましたので、以前よりもスポーツファーマシストに相談しやすくなったのではないでしょうか。

スポーツ専門の薬剤師教育

今後、日本薬剤師会としてスポーツファーマシストに期待することは?

医師、薬剤師を含めた医療界では、ベースとなる知識を踏まえた上で、専門性を高めていく流れになっています。全国的に多くいるのはガンを専門とする薬剤師などが存在します。それがスポーツ分野においてはアンチ・ドーピングを含む、スポーツの知識を備えた専門の薬剤師ということになります。その専門分野の中で、将来的にはアンチ・ドーピングに留まらず、アスリートの治療にあたりエビデンスに基づいて、パフォーマンスに影響を与えない薬物治療についてのアドバイスをスポーツファーマシストができるようになってほしいと願っています。
現在、薬剤師の資格を得るためには以前まで4 年だった課程が6年に変更され、その課程を修めて薬剤師国家試験に合格する必要があります。6年のカリキュラムの約7割は習得しなければならない内容で決められているのですが、残りの3割は大学側に裁量が与えられています。その中で専門的な教育をする大学も出てきており、その一つとしてスポーツ薬学やスポーツファーマシスト教育が行われ、さらに多くのスポーツファーマシストが誕生する可能性もあり、期待しています。
薬剤師の理念は社会貢献にあります。その理念に基づき多くの薬剤師が、調剤をしたり、健康相談に応じたり、メーカーに勤務したりと、様々な場所で活躍しています。今後、スポーツファーマシストも同じように様々な場所で活躍し、活動の範囲を広げさらなる社会貢献を目指してほしいと思います。

2016年8月 日本薬剤師会にて

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